業務改善の現場では、経験則や先入観によって取り組むことで、現場の混乱を招くことが少なくありません。原因は、経営者や業務改善担当者が「どこに」「どのような」問題が「どれだか」あるかを正確に把握していないことから、場違いな改善を行ってしまい、結果として混乱が生じます。
例えば、人件費カットの名目で業務負担が少ないと思われる部署で人員削除を行ったところ、実際は業務負担が大きく、確かに人件費はカットされたものの現場が混乱した、といったケースです。
こうした業務改善では、改善効果以上に混乱が大きくなってしまい、結果として従来よりも負担の大きい業務を強いることになります。
そこで、経営者や業務改善担当者は、取り組みの前に必ず「業務量」を調査することが大切です。
今回は、そんな業務量調査で考慮すべきポイントについて紹介していきます。
事前の打ち合わせと準備を欠かさない
「業務量調査」と聞くと簡単そうに思います。しかし、実際は長期にわたって行うもので、被調査者には多大な負担を強いることになります。そうした際に事前の準備と打ち合わせをおろそかにしてしまうと、十分な調査結果が得られない可能性があります。
業務量調査は中長期間にわたって多様な業務の「負担」を計測することから、収集するデータも必然的に膨大なものになります。収集したデータの分析や仮説検証に費やす時間も多いことから、複数部署を対象に行えるようなものではありません。
こうした対象部署の選択も、事前の打ち合わせを十分に行った上で決定することが大切です。
被調査者に伝えること
被調査者になる従業員に対しては、次のようなことを事前に伝え、十分な理解を得る必要があります。
- 業務量調査は、個々人の業務能力を測定するものではない
- 業務量調査の結果は人事評価のための資料として使用しない
- 普段と同じ要領で業務を遂行すること
これらの事項を伝える理由は、被調査者に対し「普段通りの、ありのままの姿勢で業務へ取り組んでもらうため」です。なぜなら、業務量調査では被調査者が「不自然な努力」を発揮することが多々あり、そうすると正確な調査結果を得られなくなるためです。
例えば、被調査者Aが日常的に一つの業務にかかる時間を100として、業務量調査時には70の時間で遂行したとします。この場合、日常の業務時間を正確に計測できていないので、本来は改善対象になるものであるにも関わらず、対象から外してしまい、結果として正しい改善が為されません。
従って、被調査者には業務量調査の目的と、普段通りの姿勢で業務を行う重要さを伝え、十分に理解したもらった上で実施しましょう。
ツールを使用して業務実態を可視化する
「業務量」を調査する前には、まず「業務実態」を明確にすることが大切です。つまり、どんな業務があり、業務ごとにどのような作業手順があるかを明確にすることです。この業務実態の可視化には、次のようなツールを使用しましょう。
業務体系表
業務体系 |
業務タイプ |
備考 |
|||
---|---|---|---|---|---|
大分類 |
中分類 |
||||
1 |
清掃 |
1.1 |
売り場清掃 |
固定 |
1日3回実施 |
1.2 |
バックヤード清掃 |
固定 |
1日2回実施 |
||
2 |
レジ |
2.1 |
レジ清算 |
変動 |
|
2.2 |
レジ備品 |
固定 |
|
||
3 |
商品補充 |
3.1 |
商品 |
固定 |
特定の時間 |
3.2 |
商品陳列 |
変動 |
|
参考:株式会社日本能率コンサルティング「計画的な業務割当による人時生産性向上」
業務体系表は、既存業務にどのようなものがあるかを把握できます。まずは「大分類」で大まかなカテゴリを決め、「中分類」で具体的な業務を記載し、「業務タイプ」では固定業務か変動業務かを記載します。
固定業務というのは売上に関係なく発生する業務で、変動業務は売上によって業務量や業務時間が変動する業務です。
最後に、「備考」で必要次項を記載して終わります。
作業手順シート
業務名:3.2 商品陳列 |
|||
---|---|---|---|
作業手順 |
使用ツール |
現状の問題点 |
改善策 |
売場の欠品を探す |
|
すぐに欠品しているものを見つけられない |
|
欠品数をチェックする |
チェックリスト |
欠品数を把握するのに時間がかかる |
定数を表示する |
①②を繰り返す |
|
同じ場所を何度も通る |
順序を決める |
倉庫へ移動する |
|
|
|
台車を取ってくる |
台車 |
台車の保管場所が遠い |
保管場所を変更する |
補充商品を探す |
脚立 |
商品の場所を探している |
商品保管場所を表示する |
開梱する |
カッター |
ゴミ捨て場が遠い |
ゴミ捨て場とルールを作る |
必要な数を整える |
|
|
|
補充商品を台車に積む |
台車・脚立 |
積み方が悪く、崩れたりする |
積み方を改善する |
作業手順シートは、業務体系表で洗い出した業務一つ一つの作業手順をまとめるためのツールです。ポイントは、作業手順を細かく記載すること。さらに作業ごとに使用するツールや問題点を同じく記載しておくことで、業務実態を隅まで把握できます。
このように、様々なツールを積極的に使用して、業務量調査の前に業務実態を明確にしましょう。
業務量調査の目的を明確にする
4つめのポイントは、「目的を明確にすること」です。実は、業務量調査の目的を明確にすることは、最も基本的な事項でありながら往々にして忘れがちです。
「業務量調査の目的なんて、業務改善のために決まっているだろう」という声もあるでしょう。確かに、最終的には業務改善に繋げるという目的はあります。しかし、目先の目的でいえば、業務量を分析して部署ごとの負荷バランスや、問題が多い業務は何かを知るという目的があります。
業務改善という最終的な目的だけを見るか、目先の目的も視野に入れて調査を行うかでは、その精度が大きく違ってきます。目先の目的を意識した調査を行えば、その目的を達成するために細かい施策を展開できます
だからこそ、業務量調査では改めて目的を明確にすることが大切です。
もう一つ、目的の明確化が大切な理由があります。それは、業務改善の関係者全員が、一丸となって同じ方向を見て改善に取り組むためです。
調査目的を明確にしていない場合、関係者各人がそれぞれの目的を設定してしまい、一貫した取り組みが行えません。そうなると、調査結果の精度も悪くなり、問題点を洗い出せず、結果として改善が上手くいきません。
このように、業務量調査の目的を明確にすることは、細かい施策を展開したり関係者一丸となって取り組んだりと、様々な重要な理由があるのです。
まとめ
業務量調査は長期間にわたって行い、負担も大きいことから外部コンサルタントに依頼するケースもあります。コストはかかりますが、外部コンサルタントはノウハウがありますし、調査効率を考えても有効な選択肢です。ただし、可能ならば社内で調査を実施することをおすすめします。
社内で業務量調査に取り組めば、より精度の高い調査を行え、さらに改善までのアクションを迅速に行うことができます。社内で業務量調査及び業務改善に取り組む際は、BPMソリューションをぜひご活用ください。
BPMソリューションは複雑な業務プロセスを可視化し、改善を実施、さらに改善後の監視まで行えます。ITシステムを上手く活用し、効果の高い業務改善を実施しましょう。