「エドテック(EdTech)」とはテクノロジーを教育へ導入していく取り組みであり、今後日本においてエドテックが推進されていくと考えられます。本記事ではエドテックの概要や注目されている背景、そしてエドテックの補助金制度についてわかりやすく解説します。
エドテック(EdTech)とは?
エドテック(EdTech)とは、「エデュケーション(Education:教育)」と「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語です。エドテックの定義には曖昧な部分もありますが、文部科学省の「Society5.0におけるEdTechを活用した教育ビジョンの策定に向けた方向性」においては、『教育におけるAI、ビッグデータ等の様々な新しいテクノロジーを活用したあらゆる取組』と整理しています。
つまり、AIやVRといった先端技術をはじめ、すでに使われているアプリやソフト、デバイスといったテクノロジーを活用した教育のことです。たとえば、児童生徒の学習効率を上げるためにPCやタブレットを学校に配備したり、教師の事務作業や授業準備の効率化を図るためにシステムやアプリを導入したりするのもエドテックの一環です。エドテックは、児童生徒の教育格差や教員の過剰な業務負担など、日本の教育現場が抱えている様々な課題を解決するかもしれない大きな可能性を秘めているのです。
eラーニングとの違い
エドテックと混同しやすい言葉として「eラーニング」が挙げられます。eラーニングは主にインターネットを活用した学習方法のことです。
eラーニングもインターネットというデジタルテクノロジーを活用しているという点ではエドテックと共通していますが、エドテックはeラーニングよりも広範かつ発展的な概念です。
たとえばeラーニングは児童生徒といった「学習を受ける人」に焦点を当てた概念ですが、エドテックがサポートする対象は児童生徒だけでなく、教員の業務も含まれます。また、eラーニングがオンラインの対面学習を意味することが多いのに対し、エドテックは教員と児童生徒のコミュニケーションを促進したり、よりきめ細やかな教育環境を実現したりするためにも活用されます。
エドテックの市場規模
教育現場におけるIT活用の有効性や重要性が認識されるにつれ、エドテックの市場規模は世界的にどんどん拡大しています。Panorama Data Insightsの調査によると、世界のエドテック市場の収益は2020年に858億9000万米ドル、2030年には3,785億米ドルに達すると予想されています。
また、野村総合研究所の「ITナビゲーター2022年版」によると、日本国内におけるエドテック市場規模は2021年に2,674億円が見込まれ、2027年には3,625億円に達すると予測されています。
このようにエドテックの市場規模は、今後世界的に拡大されていく可能性が高いです。
日本におけるエドテック
1人1台の端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する「GIGAスクール構想」に象徴されるように、近年文部科学省はICT教育・ICT活用に力を入れており、エドテックを推進しています。
そして文部科学省では、先端技術の活用によってより質の高い教育を実現することを目指すために、「遠隔教育の推進による先進的な教育の実現」「先端技術の導入による教師の授業支援」「先端技術の活用のための環境整備」の3点を政策の柱として公表しています。
また民間の教育事業者を管轄する経済産業省では、エドテックによる新しい学びを「未来の教室」と位置づけ、その効果を実証する事業を2018年度から実施しています。さらに教育改革に関する有識者会議を設置して、エドテックを活用した教育をどのように構築するべきかを議論し、乗り越えるべき課題と必要なアクションを提言しています。
エドテックが注目されている背景
エドテックが今注目されているのは、日本の教育現場が抱えている問題がエドテックによって解決が期待できるからです。
ひとつは、家庭の経済格差や地域性に由来する教育格差をなくす可能性があることです。エドテックによって遠隔授業が普及したり、質の高いオンライン学習が可能になったりすることで、すべての子どもにより多くの教育機会を提供できます。
グローバル人材の育成もエドテックに期待されていることのひとつです。グローバル人材の育成には語学力の強化や異文化への理解が不可欠です。そこでインターネットを活用すれば、世界中の人たちとスムーズな交流ができ、外国語や異文化などの幅広い学習機会が可能になります。
また、児童生徒の個性を伸ばす教育ができると期待されていることもエドテックが注目されている理由です。デジタルでの学習はオフラインでの学習と違って、児童生徒の基礎学力や学習状況などのデータを容易に蓄積・分析・可視化できます。児童生徒のこうした情報を把握することで個性に合わせた最適な教育を実現できます。
エドテックで実現できること
今やよりよい教育環境づくりにエドテックは必要不可欠であり、今後もエドテックの活用が推進されていくと考えられます。ではエドテックの実現によって教育環境はどのように変化するのでしょうか。
離れた場所への授業の配信
エドテックによって離れた場所への授業配信(遠隔授業)が可能になります。何らかの事情で児童生徒を学校に集められない場合でも授業ができ、また不登校の児童生徒に教育機会を提供したり、地域による教育格差をなくしたりもできます。とくに地域によっては受けられる教育に限りがあり、才能を伸ばすために親元を離れて高度な教育を受けるというケースも少なくありません。しかし、エドテックの普及が進めば、従来では不可能だった様々な教育が場所を問わず受けられるようになります。
児童生徒と教師のコミュニケーションの活性化
児童生徒と教師のコミュニケーションの活性化も実現可能です。エドテック企業が提供するツールやサポートの中には、児童生徒と教師のコミュニケーションを促進するようなものもあります。こうしたツールやサービスを使うことで、学習状況の把握や宿題の提出などがオンラインでスムーズに共有できます。また、保護者ともやり取りがしやすくなるため、教師(学校)と保護者との良好な信頼関係の構築にも役立ちます。
学習方法の多様化
学習方法の多様化もエドテックで可能です。先述したように、エドテックで児童生徒の学習データの収集が容易になれば、1人1人の学習状況に合わせた教育を提供できます。また、VR技術を使えばバーチャル上で臨場感のある没入体験ができ、どこにいても現実と同じような教室での授業や職場体験を受けられます。こうしたテクノロジーを活用した教育は、従来の教育方法と一線を画した革命的なものと言えます。
エドテックの導入補助金
経済産業省では学校などの教育機関にエドテックツールを提供する事業者に対し、その導入に要する費用の一部を補助する制度「EdTech導入補助金」を設けています。EdTech導入補助金は、エドテック事業者が補助金の申請者となり、学校などと連携して教育現場にエドテックツールの導入・活用・定着を図ることが目的です。
申請する際にはその年の公募要領を確認する必要があります。たとえば、2022年度の「EdTech導入補助金2022」では、申請方法が前年度から変更となって新たに「事業者登録申請」と「補助金交付申請」の二段階申請方式になるなど、いくつか変更点が見受けられます。
また、補助対象となるEdTech 事業者補助および補助対象となる導入先学校等教育機関、事業、EdTechツールには条件があります。そのため、申請する際はEdTech導入補助金のポータルサイトなどで必ずその年度の公募要領を確認しましょう。
まとめ
新型コロナウイルスの感染拡大の中で、オンライン授業が教育の継続と感染予防の両立を可能にしたように、エドテックは教育現場の様々な課題を解決する可能性を秘めています。エドテックの取り組みは今後も広がることが予想されるため、教育事業を行っている場合には様々な準備を整えることが必要です。