地方創生とは、デジタル技術を活用した新たな取り組みなどによって、地域を活性化させることです。近年、地方移住の関心が高まっていることなどを受けて「地方の活気を高めよう」という地方創生の考え方が注目を集めています。この記事では、デジタル化によって地域活性化に成功した取り組み事例を紹介します。
地方創生とは
地方創生とは、都市と地方の格差をなくし、日本全土における国力の向上を目指す取り組みのことです。現在、日本は人口減少や少子高齢化、東京圏への人口集中などの課題を抱えています。一部の地域に人やモノ、お金などのリソースが集中している一方で、地方では伝統的な産業が衰退したり、若い人材が不足したりと、地域社会の存続が危ぶまれるケースも少なくありません。そのような格差を減らし、地域それぞれが特長を活かした取り組みを行うことで、持続可能な社会を目指すことを地方創生といいます。地方創生という言葉が生まれたのは、2014年の第二次安倍内閣の時代です。取り組みの内容は、地域資源の活用や首都機能移転、出産・子育てにおける支援制度の確立、地方採用の強化など、地域によってさまざまなものがあります。また、近年はテレワークや地方移住に注目が集まっており、それらを支援する取り組みを採用している地域もあります。
地方創生が注目される背景
少子高齢化・人口減少
日本は平成20年(2008年)をピークに、人口が減少し続けています。また、平成27年(2015年)には75歳以上の人口が0~14歳の人口を上回り、少子高齢化が深刻化している状態です。特に地方を中心に人口減少・少子高齢化が加速しており、東京圏への転入超過数は平成26年(2014年)以降、5年連続で10万人を超えています。日本の総人口が減少するなか、一部の地域に転入者が集中するということはほかの地域で人口の流出が進んでいるということです。東京圏には総人口の約3割が集中しており、生産性の向上などのメリットがある一方で、災害時のリスクや地域間格差の拡大といったデメリットもあります。実際に、首都圏と地方では経済的な側面だけでなく、教育の質や医療水準などでも格差が生じています。
参考:
総務省統計局「1.人口 人口減少社会、少子高齢化」
総務省「地方創生の現状と今後の展開」P5
地域産業の空洞化
地方には、その土地ならではの伝統的な企業や近代工業の発展に大きく関与した企業など、地域に根付いた産業があります。しかし、近年、地域産業の撤退・移転が進んでおり、かつては企業城下町として栄えた中核都市においても工場の縮小や機能停止などが発表されています。長い間地域を支えてきた産業が衰退すると、その地域は雇用や経済がますます低迷してしまう可能性があります。若い人材は仕事を求めて都市部へ移転せざるを得なくなり、地方の過疎化が加速する原因になりかねません。
地方への移住に対する関心の高まり
近年、新型コロナウイルスの影響により、多くの企業がテレワークを導入しました。これまではオフィス出社が主流であった業種においても在宅勤務が可能になり、場所に縛られずに仕事ができる新しい働き方が注目を集めるようになりました。ポストコロナ時代では、そのような変化を受けて住まいを地方へ移す人が増加しています。また、地域資源が豊富な地域へ拠点を移す企業も増えており、既存のオフィスを縮小し地方へサテライトオフィスを新設したり、本社を地方へ移転させたりするケースも少なくありません。地方創生の施策としても、デジタル技術を用いた取り組みやリモートワークを支援する内容などが注目を集めるようになり、DXの推進に力を入れる地域も増えています。
デジタル化で地域活性化・地方創生の事例3選
福島県デジタル技術活用型地域おこし協力隊
福島県は、県内のデジタル技術活性化を目的に「福島県デジタル技術活用型地域おこし協力隊」を募集しました。福島県会津地方は、人口減少や高齢化などが加速しており、自治体のほとんどが条件不利地域に指定されています。しかし、一方で、会津地方はデジタル技術の活用によって課題解決を目指す、先進的な取り組みをしている地域でもあります。そのような状況に着目し、福島県は自治体のDX促進によって、地域の活性化を目指す支援を行うことにしました。協力隊の役割は「會津価値創造フォーラム」のメンバーとなり、町内のICT事業者と自治体をつなぐことです。デジタル技術の専門知識を活かし、教育現場や行政などにシステム・機器の使い方などをわかりやすく説明します。令和3年度には複数の町に向けてシステムの仕様決定や構築のサポートを行い、デジタルシステムの導入につなげました。
とちぎデジタルハブ
「とちぎデジタルハブ」は、地域のさまざまな課題を抱える人と、デジタル技術によって課題を解決できる人をつなぐマッチングサイトです。誰でも気軽に参加でき、日々の生活で困っていることや多くの人が感じている地域課題などを投稿できます。県内の技術者はもちろんのこと、県外の事業者なども利用できるため、地域の課題に対して知見のある外部者の意見を聞くことができます。栃木県は、内閣府の地方創生推進交付金を活用し、とちぎデジタルハブを構築しました。実際に、危険性の高い林業の作業現場において安全性を確保するツールの開発などに役立てられており、問題解決に向けた実証が開始されています。
コワーキングハブ南予サイン
「コワーキングハブ南予サイン」は、愛媛県内子町内に整備されたコワーキングスペースです。テレワーカーやワーケーションの誘致を目指して、移住相談窓口も設けられています。また、令和2年度には町民から寄贈された「二宮邸」を整備し、移住体験ができる場所として、テレワーク環境が整った宿泊施設が設立されました。これらの設備を活用し、2泊3日のモニターツアーやオンラインの移住セミナーといった、移住をサポートするイベントも行われています。内覧会の視察やテレワーク、宿泊、イベントなどで多くの人が訪れており、人口減少が進む南予地域の活性化に貢献しています。
デジタル化で住民生活の利便性向上・地方創生事例3選
町の広報紙を電子書籍化
宮城県丸森市は、町の広報紙「広報まるもり」を電子書籍化し、Web上で公開する取り組みを行っています。もともと丸森市では、広報紙やチラシなどを紙媒体で配布したり、回覧させたりすることで情報を周知していました。しかし、「家族全員が読む前に回覧をまわしてしまうことがある」「紛失時に情報を確認できない」などの課題があり、後からでも必要な情報を見直せる方法として検討されたのが、電子書籍化です。広報紙を電子書籍化したことで、利用者はアプリなどから広報物にアクセスできるようになりました。また、域外の人に観光情報をお知らせしたり、住民に必要な情報をタイムラグなく届けられるようになったりと多くのメリットが期待されています。
Toyama Smart City Square(富山市情報公開サイト)
「Toyama Smart City Square(富山市情報公開サイト)」では、富山市が推進するスマートシティ関連事業の情報を扱っています。もともと富山市では、住まいと生活に必要な機能を隣接させるコンパクトシティ政策が行われていました。しかし、郊外に住む住民はそのような政策の恩恵を実感しにくいという問題があります。そのため、郊外も含めた地域の課題をデジタルで解決していく仕組みとして、スマートシティ政策への取り組みが求められるようになりました。Toyama Smart City Squareは、道路工事・通行制限情報や河川水位情報、消防車両出動情報、窓口混雑状況などを掲載しています。誰でも自由にサイトを閲覧でき、生活に役立てることができます。
柏崎市デジタル予算書
新潟県柏崎市は、全国の自治体ではじめて市の予算を「柏崎市デジタル予算書」としてまとめ、Webサイトで公開しました。これまでも予算情報をPDFなどで公開している自治体はありましたが、掲載されているのは予算の大枠のみだったり、年度別のため複数年で比較ができなかったりと、さまざまな課題を抱えていました。柏崎市デジタル予算書では、要求から査定までの予算編成過程を公開しており、予算にまつわる詳細な情報を閲覧できます。また、Webページ上で複数年の予算額をひと目で比較でき、予算の推移などを把握することも可能です。市政運営の透明性をアピールでき、行政への信頼感や関心の向上につながっています。
デジタルによる防災支援・地方創生の事例3選
女性のためのオンライン防災カフェ
山形県は、防災分野への意識向上を目的に「女性のためのオンライン防災カフェ」を実施しました。近年、内閣府が「男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン」を策定し、防災分野においても男女共同参画の考え方が求められるようになっています。そのような状況を受け、女性が気軽に防災の知識を学べる場としてzoomにて開催されたのが女性のためのオンライン防災カフェです。女性のためのオンライン防災カフェの特徴は、オンライン開催によって全国から多様な地域に住む人が参加可能になったことです。参加者は、県外のパネリストやほかの地域に住む参加者の意見を聞くことや、今後の具体的な取り組みにまつわる意見の交換ができました。
CMSに連携した村の防災アプリ
福島県中島村は新たな情報発信のツールとして、村の防災アプリを作成しました。もともと中島村では、防災無線を用いて防災情報や村の避難情報などを周知していましたが、令和元年に発生した台風19号のときに「防災無線だけでは聞き取りづらい」という指摘を受け、新たなツールの導入が検討されました。中島村の防災アプリは、白河広域市町村整備組合が構築した共同運用のCMSに連携しています。それによりシステム構築の手間や費用を削減でき、コストを抑えてのアプリ作成が実現しました。
被災者支援ナビ
広島県広島市では、大規模な災害などが発生したときに、被災者が受けられる見舞金や税免除などの支援策がわかる「被災者支援ナビ」を導入しました。「被災者支援ナビ」はSaaSを活用したサービスで、住民はスマートフォンなどでいくつかの質問に回答するだけで、自身が該当する公的支援策や手続きの方法をひと目で把握できます。被災者支援ナビが開発される背景には、平成26年8月20日や平成30年7月に発生した豪雨災害が挙げられます。「自然災害が発生したとき、被害の状況によって支援策を導き出せる仕組みが欲しい」という要望を受けて、導入されました。
デジタル化で健康増進・地方創生の事例3選
南国市健康ポータル
高知県南国市は、マイナンバーカードを利用した電子お薬手帳機能を持つ「南国市健康ポータル」を導入しています。南国市では、住民の健康意識は高いものの、ひとりひとりの医療費は高額になりやすいという課題がありました。そこで、スマートフォンを持たない高齢者なども自分の服薬情報を簡単に把握できるようにして、健康への関心をさらに高めるために導入されたサービスが南国市健康ポータルです。南国市健康ポータルの特徴は、専用機器を設置してマイナンバーカードを読み込めば、自宅のテレビ上で電子お薬手帳を閲覧できることです。スマートフォンを持っていない人や、タブレットの小さい画面が見づらい人なども快適に使用でき、市が提供する健康情報なども併せて受け取れます。今後は母子健康情報サービスなどとの連携も検討されていて、さらなる利便性の向上が期待されます。
オンラインを利用した診察・服薬指導環境の提供
愛知県豊根村では、オンラインを利用した医師の診察や服薬指導を実施しています。もともと豊根村には薬局がなく、医師の高齢化や人手不足が深刻化していました。村民が医療を受けるときは離れた病院に車で向かわなければならないという課題に対し、より使いやすい医療環境を整える目的で導入されました。このサービスでは、住民が自身の端末を利用して診療所の医師から診察や、処方された薬の服薬指導を受けられます。高齢者には端末操作を別途サポートする必要があるなどの課題もあるものの、「操作に慣れれば対面と変わらない」「車の運転がなくて助かる」などの意見も多く、注目を集めています。
みまもりパペロ
「みまもりパペロ」は、一人暮らしの高齢者の見守りをサポートするコミュニケーション・ロボットです。藤枝市では一人暮らしの高齢者が増えており、離れて暮らしている家族が様子を確認できるツールを模索していました。みまもりパペロは、顔検知機能や音声認識、クラウドサービスが融合しており、ロボットを介して家族などといつでもつながることができます。家族との写真・メッセージのやり取りや、ロボットとの会話を通じて孤独感を和らげる効果があり、市が災害情報を発信したときは必要な情報を読み上げる機能もついています。
教育のデジタル活用・地方創生の事例3選
ここでは、デジタル技術によって教育分野の活性化に取り組む愛知県、福島県、徳島県の事例を紹介します。デジタル技術を活用した学校間連携
愛知県は、山間部や半島部などの小規模校において、デジタル技術を活用したオンライン授業を実施しています。人口減少や少子高齢化などを受け、一部の学校では生徒数や教育資源が減少し、ニーズに合った細やかな指導の実施に課題を抱えていました。そこで、各学校単独では困難な、専門性が高く多様な教育を提供するために導入されたのが、複数の学校で連携を取りながらオンラインで同時に授業参加をするシステムです。システムの導入により、離島にただひとつしかない学校でも質の高い教育を受けることが可能になり、生徒の進路希望に応じた多様な科目を学習できるようになりました。
ICTを活用した授業の実践
福島県では、ICTを活用した授業を実施し、その効果検証を行っています。教育分野でDXを促進するには、ICTによって指導する能力を持つ教員を育成しなければなりません。福島県では、県内7地区にある小中学校14校の協力のもと、生徒ひとり当たり1端末を支給して授業を行う「ふくしま『未来の教室』授業充実事業」を展開し、指導方法やICTの活用方法などを研究しています。具体的な方法については、AIドリルを使った授業やクラウドアプリの導入などが挙げられます。また、定期的に公開授業や取り組みの成果発表なども行っており、教育委員会のホームページでは実践事例の確認が可能です。事例を広く周知することにより 、県全体における教育の質の向上が期待されています。
小中一貫教育を対象としたプログラミング教育
徳島県佐那河内村にある「佐那河内小中学校」では、9年間の教育課程でさまざまな分野にプログラミング教育を取り入れています。導入のきっかけとなったのは、令和2年度に、徳島県立総合教育センター教育情報課と連携を取って作成された「プログラミング教育の実践・情報活用能力年間計画」です。生徒はプログラミングを単独で学ぶだけでなく、それぞれの教科に取り入れながら、小中学校9年間の一貫した計画に沿って学習していきます。実際に、佐那河内小中学校では家庭科やふるさと学習などにおいても、プログラミング教育が実施されています。個人学習だけでなくグループ学習による課題解決を行うことで、生徒のコミュニケーション能力や論理的思考能力の向上もサポートする取り組みです。
デジタルによるキャリア支援・地方創生の事例3選
ここでは、デジタル技術によって就労支援を行う三重県、京都府、兵庫県の事例を紹介します。中小企業のための障がい者のテレワーク導入ガイド
三重県は「中小企業のための障がい者のテレワーク導入ガイド」を作成し、障がい者のテレワーク就労をサポートしています。三重県が目指しているのは、障がい者とともに働くことが当たり前になる社会です。そのため、テレワークが普及したポストコロナ時代における、新しい障がい者雇用モデルが求められるようになり、導入ガイドが作成されました。中小企業のための障がい者のテレワーク導入ガイドには、RPAなどのICTを活用した障がい者のテレワーク就労のノウハウや、分身ロボットを活用した接客方法などが記載されています。また、三重県では導入ガイドによるノウハウ周知だけでなく、障がい者のテレワークを推進する企業に対してアドバイザーを派遣し、労務環境や執務環境の整備サポートなども行っています。
キャリアジム京都
京都府京都市では、SNSで仕事紹介やキャリア相談ができる支援サービス「キャリアジム京都」を提供しています。キャリアサービスを必要としている就職氷河期世代の人は所在を掴むことが難しく、ひとりひとりにアプローチするのが難しいという課題がありました。キャリアジム京都は、気軽に利用しやすいSNSを活用することでそのような課題を克服し、就職や転職で悩む多くの人に利用されています。キャリアジム京都の特徴は、就職氷河期世代である35〜54歳ほどの人を対象としており、オンライン上で質の高い就労支援が受けられることです。国家資格を持つカウンセラーの無料就労相談を受けられるほか、適職診断やチャットボットによる相談受付などのサービスがあります。
AI面接サービス
兵庫県姫路市は、AI面接サービスを実施している企業と連携を取り、AI面接の普及に取り組んでいます。兵庫県では、地元企業の人材不足が深刻化しており、より広い地域から人材を集める必要がありました。しかし、遠方からの面接は交通費や移動時間などがネックになりやすいという問題があります。そのような状況を受け、地域の雇用を活性化するために導入されたのがAI面接サービスです。AI面接サービスを活用することで、求職者は時間や場所にとらわれることなく、自身のタイミングで面接を受けられます。また、企業は遠方に住む求職者を採用しやすくなり、人材不足を解消するメリットが期待できます。
まとめ
地方創生とは、都市と地方の格差をなくし、日本の国力を向上させる取り組みのことです。地域の特色に合ったアプローチを実施することで、自律的かつ持続可能な社会を目指すことを目的としています。地方創生の内容はさまざまなものがありますが、近年注目を集めているのは、デジタル技術を用いた新しい取り組みです。地域によって内容は異なるものの、インターネットを通じて情報を発信したり、独自のITシステムを構築したりすることで、住民の利便性を向上させた事例が数多く見受けられています。デジタル化と聞くと大掛かりなものをイメージしがちですが、「紙媒体を電子化する」「デジタル技術を持った人が適切なサポートを行う」などの身近な支援が、地方創生につながることもあります。