横浜DX戦略を推進。
デジタルを活用して市民を幸せにし、魅力あふれる都市を作る
横浜市デジタル統括本部は、2021年4月に設置された部署です。横浜市の人口増加が頭打ちになるとの推計があり、人口増減の転換期を迎えるにあたってデジタル化の必要性が高まっていたところに新型コロナウイルス感染症が発生し、早急なデジタル化が求められるようになりました。そのため横浜市のデジタル化、DXの推進を統括する組織として設立されました。
その横浜市デジタル統括本部が取り組んでいるのが、「横浜DX戦略」です。
横浜市の課題や、取り組みなどを伺いました。
地域創生に対して、横浜市の現状と課題をお教えください。
古石:横浜市に限ったことではありませんが、人口減少と高齢化の進展などにより、財政状況がより一層厳しさを増すことが見込まれ、いかにして持続可能な行政運営を行うべきかという課題があります。
そうした課題に対して、地域創生という観点から横浜市を活性化させることができれば、人口減少や歳出超過といった課題にある程度は立ち向かって行くことができるのではないかと考えています。
谷口:横浜市は人口約377万人の最大の基礎自治体ですが、2021年をピークに人口減少に転じました。減少幅は約377万人からすれば少ないものですが、それまで増加していたものが減少に転じたということは、ひとつのターニングポイントだと思います。
古石:横浜市と聞くと、みなとみらい21地区のような都市部を思い浮かべるかもしれませんが、横浜市は18の行政区があり、野山や農地が広がる自然豊かな地域もあれば住宅地もある、さまざまな面を持っています。人口減少が一律で起きているのではなく、増加している区もあれば、以前より減少が始まっている区もある。全体的に減少している自治体とは違った対応が求められる、特異な地域だといえます。
「横浜DX戦略」とは、どのようなものなのでしょうか?
古石:横浜市として中期4か年計画など、方針を定める計画はありますが、その下にDXの推進を目的とした「横浜DX戦略」を2022年に策定し、取り組んでいます。
デジタル化によって社会が変化しているなか、デジタルの恩恵をすべての市民、地域に行きわたらせるためにはどうすれば良いのか? 具体的に目に見える形で戦略として表すことで皆が同じ方向を向き、デジタルの活用によって、市民の皆さんが幸せになる、魅力あふれる都市を作ることを目的としています。
戦略は「3つのDX」と「3つのプラットフォーム」を骨格としており、3つのDXでは、快適なサービスを創る「行政のDX」、みんなの元気を創る「地域のDX」、まちの魅力を創る「都市のDX」を総合的に推進し、3つのプラットフォームは、DX戦略の推進を支える基盤として「戦略推進のエンジン」、「創発・共創のスキーム」、「データ連携のインフラ」を整備し相互に連動させて行きます。
谷口:「横浜DX戦略」では、2025年までの4年間を最初の戦略期間とし、その期間に取り組むべき重点方針を明らかにしています。2022年に第1クオーターがスタートし、現在は第2クオーターに入っている段階です。
DX実現に向け、7つの重点方針で取り組んでいます。
- あなたのいる場所が手続の場所になる」行政サービスの実現。
これは、行政サービスのデジタル化を目指したものです。区役所では戸籍や住民票など、さまざまな手続きを窓口で行っています。そういったものをデジタル化することで、場所や時間の制約を受けることなく、手続きを行うことができます。横浜市には1万を超える手続きがあります。そのなかから取扱件数が多い100件をデジタル化することで、約9割の手続きは網羅できます。その上位100件を2024年までに総てオンライン化しようと準備を進めているところです。
その他、
- 「場所を選ばず組織を越えて連携できる」ワークスタイル実現。
- 地域の交流と活動を支えるミドルレイヤーのエンパワーメント。
- 先行、先進のプロジェクトを地域や都市レベルで展開・発信。
- デジタル×デザインを戦略的に推進する体制の強化。
- 創発・共創とオープンイノベーションの仕組みづくり。
- セキュアで活用・連携しやすいデータ基盤の整備。
があります。
特に、⑥創発・共創とオープンイノベーションの仕組みづくりでは、「YOKOHAMA Hack!」という取り組みを行っています。DXの推進は行政だけで進めて行くことはできません。民間企業のさまざまな製品、技術、アイデアを効率的に吸収し、連携して行くことが必要となります。行政課題を持っているいろいろな部署と民間企業の皆さんをマッチングさせるプラットフォームが「YOKOHAMA Hack!」です。
「YOKOHAMA Hack!」では、保育園児等の園外活動時の安全を守るために、ICTを活用した子ども見守りサービス・製品を紹介するオンライン展示会を開催し、市内の保育所等の方々が導入検討の参考にしてもらったり、職員が徒歩による目視で調査を行っている河川の土砂堆積状況の把握を、航空写真のAI画像解析やレーザ測量等によって行うことができないか実証実験を行うなど、様々な取組みを行っています。
ICTを活用したこども見守りサービスのオンライン製品展示会の様子
古石:幅広い内容ですが、さまざまなことにデジタルが活用できるという視点を示したいと考えてのことです。
ただし、「横浜DX戦略」の内容は、デジタル統括本部だけでは達成できません。各部署の職員が皆、「自分たちは何ができるのだろう?」と考えることが大切です。当事者意識を持ち、デジタルを活用して解決して行く。デジタル統括本部はその可能性を提示して行くことが必要だと考えています。我々はまだ、各方面と話を進めて行く途中ではありますが、「やって行かなければならない」という声が多く、手応えを感じています。
谷口:今まであまりデジタルに関わってこなかった職員に対してデジタル化に関する相談窓口を作り、「何でもいいから相談してください」と投げかけたところ、2022年6月から2023年3月までの10か月で242件の相談がありました。今も月に30~40件の相談が届いています。そうした相談を7つの重点方針に当てはめ、ひとつひとつ解決しています。
この、242件の相談が多いのか少ないのか評価は分かれるかもしれません。市役所には600を超える課があり、同じ課から複数の相談もあるので単純に計算はできませんが、半分弱の課は動き始めており、職員にも当事者意識を持つ雰囲気はできてきていると思います。
とはいえ、相談したいと思っているけれど相談できない職員や、悩みを持っているけれどデジタルで解決できると気付かない職員はまだまだいて、我々はまだ活動を伝え切れていない。例えばRPAで課題を解決した成功事例を紹介し、「もしかしたら私が今までコツコツとやっていたことは一瞬で終わるかもしれない」と、気づいてもらわないといけない。もっと活動のPRに力を入れたいと考えています。
「横浜DX戦略」によって、どのようなことが実現できるとお考えでしょうか?
谷口:「横浜DX戦略」でお伝えしているのは、「今まで市民の皆さまに課していた手間や時間をお返しする」ということです。これまで、区役所に行かないと手続きできないとか、9時から5時じゃないと開いていないとか、来ても並んで待たなければならないなど、市民の皆さまにご不便をかけていましたが、デジタルを活用することで、市民の皆さまに時間をお返しすることができるのです。
古石:また、ロボットにできる仕事があればロボットにやらせて、人間は人間でなければできないことをやる。人と人のつながりでないとできない仕事に職員が時間を割ける。そこでもやはり「課していた手間や時間をお返しする」ことになります。
デジタルの価値をどうお考えですか?
古石:新型コロナウイルス感染症が発生しても、デジタルがあったからオンラインで会議を行うこともできました。デジタルのおかげでコミュニケーションが取れる。デジタルの良さを実感しているところです。
谷口:デジタルの良さは、選択肢を広げることができることだと思います。市民の皆さんは情報を選んで得ることができる。職員も人間がやっていた単純作業をロボットに替えることで、もっと市民の皆さんのために時間を使えるようになる。
また、紙媒体では画一的な情報の提供になっていたものを、デジタルにすることで本当に必要な人だけに必要な情報を漏れなく届けることができる。デジタル技術の活用によって、できることが広がったと感じています。
これから未来、横浜市はどのようになって行くのでしょうか?
古石:「横浜市中期計画2022〜2025」では、2040年頃の横浜のありたい姿として、「共にめざす都市像」を描き、基本戦略として「子育てしたいまち 次世代を共に育むまち ヨコハマ」を掲げています。若い世代に横浜市に住んでもらう。「横浜市に住むと楽しそうだな」「暮らしやすそうだな」と思ってもらえる横浜市にして行きたいと思って、我々は取り組んでいます。
谷口:横浜市と聞くと、多くの方々はみなとみらい21地区や中華街をイメージします。当然、そこを磨いて行くことも大切ですが、その次の横浜市を作って行く。観光客だけでなく、若い人やこれから育っていく子どもたちの視点は大事だと思っています。これから横浜市が都市として成長していくためには、幸せを感じるとか、豊かな生活ができると思ってもらい、生活する場所として選んでいただけるようなまちづくりを、デジタルやDXでお手伝いできればと考えています。
本取材記事「横浜DX戦略を推進。デジタルを活用して市民を幸せにし、魅力あふれる都市を作る」をご一読くださりありがとうございます。
2023年8月22日より開催いたしました、デジタル社会実現ツアー(主催:アマゾンウェブサービスジャパン合同会社)のオンデマンド配信を現在実施しております。
各地域における地方創生の取り組みをご紹介しておりますので、ご興味ある方はぜひこちらよりご参加ください。
横浜市デジタル統括本部 担当部長
古石正史様
横浜市デジタル統括本部 デジタル・デザイン室長
谷口智行様