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公共部門向け生成系AIユースケース集
医療・介護

医療分野におけるAIの現状と課題| 導入のメリットや事例もあわせて解説

AI(Artificial Intelligence/人工知能)とは、コンピューターにより人間の知能を再現する技術です。

応用範囲は幅広く、医療・ヘルスケア分野でも医療の質の向上や医療従事者の負担軽減を目指した活用が進んでいます。十分な信頼性の確保やプライバシー保護の問題など解決すべき課題もありますが、将来的には疾病の早期発見や治療の最適化など、よりよい医療を提供するための基盤技術として期待されています。

医療分野におけるAIの現状と課題| 導入のメリットや事例もあわせて解説

医療分野におけるAI(人工知能)の活用方法とは?

医療・ヘルスケア分野では、AIを活用することで医療の質を向上させる取り組みが進められています。特に画像診断におけるAI活用は進んでおり、人間では気づきにくい異常の発見や医師の負担軽減などに貢献しています。

医療分野でAIを活用することで、人手不足などの解決にもつながることが期待されています。

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医療分野でのAIの現状

一般企業では、2019年に施行された働き方改革関連法により長時間労働の改善が進められています。
医療業界では、医師や看護師の時間外勤務や休日労働などの過重労働が大きな問題となっています。しかし、勤務環境の整備不足が深刻であることから、働き方改革の実施が難しいと考えられたため、5年の猶予期間が設けられました。

2024年4月に医師の働き方改革が開始されると、医師の労働時間が厳格に管理されるようになります。
勤務時間を削減するためにはAIをはじめとしたIT技術の活用が不可欠です。すでに医療業界では、画像認識技術を活用した検査支援システムや事務作業を効率化するサービスなどを導入し、医師の診断時間の削減や負担軽減を目指しています。これらは地方における医師不足の問題を解決する手段としても期待されています。

政府も、医療分野におけるAIの開発や利活用を推進しています。
2019年には「AI戦略2019」を策定、医療分野におけるAIの社会実装を目標に掲げて各種データの集積とプラットフォームの構築を進めるほか、医療従事者の負担軽減や最先端の医療AI活用に向けた取り組みを開始しました。さらに2022年に策定した「AI戦略2022」では深層学習を重点分野と位置付け、AIに対して説明性を確保する技術の開発やAI駆動の医療診断システム開発を目指しています。

反面、AI医療機器の実導入は20件(2023年3月時点)と進んでいない現状があります。これは承認審査に時間がかかることに加えてAI医療機器に対する保険適用が進んでいないことが影響しています。AI医療機器を用いた診断が公的保険として適用されたのは2022年12月のことです。医療分野でのAI活用を加速するためにも、今後AI医療機器の保険適用を推進することが求められています。

参照元:内閣府「AI戦略2022の概要」

参照元:厚生労働省「これまでの議論の整理と今後の進め方」

参照元:独立行政法人医薬品医療機器総合機構「機械学習を活用する医療機器の審査について」

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医療AI導入の課題

医療AIの導入が積極的に進められている一方、解決すべき課題も数多く存在します。例えばプライバシーの問題やAIの信頼性、責任の所在などの課題があります。

プライバシーの問題

医療に関する情報は、性別、年齢、既往歴などの個人情報が多く含まれます。そのため学習などに自身の医療データが使用されることに対して拒否感を持つ患者もいます。

また近年では病院などの医療機関を狙ったサイバー攻撃も増加しており、万が一情報が流出した際の対策やトラブルが起こった際の対処法についても考えておかなければなりません。AIを活用する際は、厳重なプライバシー保護とセキュリティ対策が求められます。

AIの信頼性(機械学習・精度の偏り)

経験を積んだ医師ではなく、コンピューターが機械的に診断することへの信頼性の問題もあります。特にAIは推論の過程がブラックボックスの状態のため、判断の根拠が見えにくく信頼しにくいという課題があります。

症例が少ない病気に対するデータ収集の困難さも課題です。AIが学習するためには大量のデータが必要です。しかし希少疾患の場合は患者数が少なく収集できるデータが少ないため、正確な診断や予測が難しくなります。この課題に対しては、少ないデータでも予測できるAIの開発が進められています。

また、AIの診断に頼りすぎることで、AIの判断に誤りがあると患者の診療に影響がでるおそれがあります。医療AIが広く浸透した場合、ひとつの判断ミスから、多くの患者が被害を受ける可能性があります。

医療事故発生時の責任の所在

AIによる自動運転で起きる交通事故の場合、責任がどこにあるのか、当事者同士で更なるトラブルへと発展することも少なくありません。医療事故発生時も同様の事象が懸念されます。患者に被害や損害が生じた場合、事故の責任を誰が負うのか、責任の所在が不明瞭なことが課題のひとつです。

医療AI導入のメリット

前述で、医療AI導入に対する課題が残ることを述べましたが、一方でAIを導入することにはメリットもあります。医療の質向上と医療従事者の負担軽減の両方が実現可能な点です。詳しく解説していきます。

医療行為の精度と質が向上する

医療現場でAIを導入することで、人間が判断するよりも正確で迅速な判断が可能になります。またゲノム分析やビッグデータ分析など手作業では困難な膨大な量のデータ分析もAIであれば可能です。医療行為の精度と質が向上するのがAI導入の大きなメリットです。

医療業務の効率化につながる

医療現場では、働き手不足が大きな問題になっています。医療分野での2024年問題もあり、医療の効率化は喫緊の課題です。医師の診断をサポートするAI診断支援システムの導入により、医師の作業時間を削減し、負担軽減につながります。

医療現場での事務作業削減につながる

医療現場では、患者の情報管理やレセプト作業などもAIで効率化できます。例えばシステムの入力支援やデータの自動入力など、AIを活用することで、医師や看護師をはじめとした医療従事者の業務効率化が実現し、負担減少につながります。

医療AIのこれから

医療分野においては、今後AIはさまざまな場面で活用されることが期待されています。現在開発が進められている取り組みについて、すでに実現している技術も含めて代表的な7つを紹介します。

ビッグデータを活用した診察・診断支援

医療分野におけるビッグデータとは、検査画像や数値などを含む患者の医療情報のことです。以前は収集した医療情報はそれぞれの医療機関が保有していたため、情報が分散していましたが、2018年5月に「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律(次世代医療基盤法)」が施行されたことで、医療ビッグデータとして活用できるようになりました。

医療ビッグデータの代表的なものが画像診断です。大量のデータを学習したAIが診断を支援することで、病気の早期発見やヒューマンエラーを防止します。

ゲノム(遺伝子)医療

ゲノム医療とは、ヒトの遺伝情報(ゲノム)を解析して効率的に病気の診断や治療を行う医療方法です。ゲノム情報は膨大な量があるだけでなく、ひとりひとり配列が異なります。手作業でゲノムを解析するのは多くの手間と時間がかかるため現実的ではありません。

AIを活用することで、短時間で問題の個所を発見することが可能になります。まだがんゲノム医療が治療に結び付く可能性はそれほど高くないものの、がんの治療にはゲノム医療が導入され始めています。患者のがん細胞に起きているDNAの異常を見つけ出すことで、患者ごとに、副作用が少なく効果が高い治療を行える可能性があります。

自然言語処理(NLP)によるカルテ解析

自然言語処理とは、人間が話す言語をコンピューターが処理して内容を抽出する技術を指します。AIでカルテに記載された内容を解析することで、医師が患者の病気を特定するサポートを行うことができます。これにより医師の負担軽減につながることが期待されています。

また電子カルテのデータだけでなく、がんの組織画像などを複合的にAIが分析することで、手術を実施した後からがんが再発するまでに起こりえるパターンを予測するといった活用も進められています。

AIロボットによる手術支援

医師の不足は、手術を行う医師の負担増につながります。

医療現場では、前立せんがんや腎がんなどに対して患者の体に配慮したロボット支援手術(ダヴィンチ手術)が2010年代から国内でも普及しています。人の手に代わりロボットで遠隔操作する技術に加え、今後はAIを連携することで、より高度な手術を行えるようにし、医師の負担を軽減することが期待されています。

入院患者の異常検知

入院患者の状態をチェックし、異常を検知する際にもAIは役立ちます。

2018年に介護報酬が改定されたことで、病院などの施設で夜間駐在の人員を削減する代わりに見守り機器を使用することが可能になりました。そのためカメラやセンサー等で患者の状態を把握し、AIで異常を検知することで入院患者の無人見守りを行う施設が増加しています。これにより看護師の負担軽減につながっています。

医療機器・器具の高度化

AI機能を搭載したIoT機器も医療AIに貢献しています。例えばスマートウォッチは、常に身に着けているという特性があり患者の健康管理に役立ちます。患者が身に着けることで血圧や心拍数、体温などの健康状態を常時チェックでき、問題があれば医療施設側に異常を通知可能です。

これらの機器を活用することで、従来看護師が行っていた血圧測定などを自動化できます。患者にとってもストレスが軽減するほか、看護業務の効率化にも役立ちます。

関連記事:医療業界の課題を解決できるIoTとは? メリットや活用事例を解説!

レセプトの自動作成

レセプト業務とは医療事務のひとつで、健康保険組合などに診療報酬を請求する業務です。通常は、医療事務関連の資格を取得し専門知識を有した事務員が作業を行います。レセプトコンピューターへのデータ入力や内容のチェックなど定型的な作業のため、AIによる自動化が可能です。これにより医療業務の業務効率化につながります。

AIによる難病治療薬の開発

従来の医薬品開発では、疾患の原因となるたんぱく質を特定後、そのたんぱく質の機能を阻害する物質を見つけるため長い時間と多額の開発費が必要になります。開発に10年以上を費やすこともあった上に、開発の成功率が低いのが現状です。特に治療法が確立されていない指定難病に関してはより創薬が難しい状況があります。

そこで化合物の特定やシミュレーションなどに創薬AIを活用してプロセスを効率化・自動化することで、時間とコストの削減が実現します。開発費を抑えることで、薬価の引き下げも期待できます。

【事例】医療AIの導入・活用例

国内でも、AIを活用したさまざまな医療システム・サービスが開発されています。開発・実証実験段階の事例も含めて5つを紹介します。

自然言語処理を活用した診断

あるAI開発のスタートアップでは、医療スタッフと患者との日常会話のデータをAIが解析して、会話の内容や特徴から患者が認知症の可能性があるかどうかを早期に判定できる認知症診断支援システムを開発しています。現在は臨床試験を開始し、製造販売承認取得へ向けて試験・調査を進めている段階です。

患者の発話内容を分析する診断支援システムは、認知症だけでなく他の病気でも活用できる可能性があります。この企業では、認知症検知の知見を応用し、うつ病や躁うつ病の診断支援プログラムも進めています。

治療薬選択の支援

糖尿病は、体内のインスリンが活動せず血液中の血糖が増加する疾患です。中高年に多い2型糖尿病では、腎臓病や視力低下といった合併症を予防するために複数の治療薬を組み合わせて服用します。従来、治療薬の選択は医師の経験による判断が主でしたが、国内大手メーカーでは海外の大学と共同研究を行いAIが治療薬選択を支援してくれるシステムを開発しました。これは過去の電子カルテデータをAIが分析し、体重や検査の数値、服用している治療薬などの状態が似ている患者の治療パターンを抽出して学習できるのが特徴です。

このシステムを活用することで、複雑な治療が必要な患者に対しても処方薬の組み合わせによる効果を確認し、医師と相談しながら治療方針を決められるようになりました。

視鏡の画像診断AI

がん検診には、人間ドックのように個人が自身の健康のために受診する任意型検診と、がんの死亡率を下げる目的で地域や職場で集団検診を行う対策型検診があります。後者においては、最初に検診を行う医師と、診断ミスがないかダブルチェックを行う医師が必要であり、現場の作業負担が課題となっていました。

そこで内視鏡診断の知見を持つ医療AIスタートアップが、課題解決のため対策型胃内視鏡検診サポートサービスを開発しました。これは検診情報や検査画像をクラウド上に保存し、検査用紙の処理や郵送などの事務負担を軽減するほか、将来的にAIを搭載して診断支援を行うことを目指すものです。

施設の見守りサービス

ある大手印刷会社では、LPWA(低消費電力広域ネットワーク)と呼ばれる通信規格を活用した各種サービスを開発しています。そのひとつが、病院内施設のトイレやシャワーといった個室における見守りサービスです。

個室内に人感センサーや開閉センサーを設置して患者の動きやドアの開け閉めを検知し、AIが緊急時の検知パターンを学習することで、的確に異常を検知できるしくみを実現しました。病院内ではネットワーク機器の使用が制限されていることから、医療機器と電波干渉の可能性が少ないZETAを採用することで問題を回避できます。またカメラを使用せずセンサーを使用することで、プライバシーに配慮した見守りが実現します。

認知症診断のSaMD

AI開発を手掛けるあるスタートアップは、認知症診断支援のプログラム医療機器(Software as Medical Device、略してSaMD)を大学と共同開発しました。SaMDとはデジタル技術を活用して診断や治療などの医療行為を支援するソフトウェアのことで、医薬品医療機器等法(薬機法)上、医療機器として認められています。AIを活用した診断支援ソフトウェアのほか、治療に用いるアプリなどが該当します。

大学で開発した認知症の判定モデルに関する特許を使用してAIアプリケーションを開発するもので、2023年中に承認されると認知症診断分野では初のSaMDになります。

まとめ

医療業界では人手不足や長時間労働といった課題があり、AIを活用することでこれらの課題を解決することが可能です。また高度な機能を提供することにより、人間よりも正確に診断が行える場面もあり、今後活用が期待されています。現在はプライバシーの問題や精度の課題などがありますが、将来的にはこれら課題も解決していくと考えられます。

医療業界の課題については、以下の記事でも詳しく解説していますので、併せてご確認ください。

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