多発する災害による被害を防ぐためには、有効な対策が必要です。
この記事では、防災の概要や減災との相違点、自然災害に対する防災活動のさまざまな課題について解説します。課題解決のためには防災DXが不可欠です。企業や自治体の防災DXの活用事例を参考にして、どのような対策をとればよいのか検討しましょう。
関連記事:防災DXとは? 求められる理由や課題、取り組み事例を紹介
防災とは?
国内で起こりうるさまざまな災害に対しては、防災活動を行う必要があります。防災とは、地震や風水害などの自然災害に備えることです。
災害対策基本法の第2条第2号の定義によると、防災は「災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、および災害の復旧を図ること」を指します。
引用元:「災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)」
減災と防災の違い
防災と減災は、どちらも災害への取り組みを表す言葉という点では同じですが、災害と被害の発生を前提としているか否かという違いがあります。
減災は災害が発生することを前提としており、被害を最小限に抑えるための取り組みです。災害を完全に予測し防ぐことと、被害をゼロにするのは難しいという視点から、自分の身は自分で守る「自助」と助け合う「共助」を重視しています。
防災は災害の発生を防ぎ、被害をできる限りゼロに近づけるための取り組みです。前述した災害対策基本法の定義より、防災には被災から復旧までの取り組みも含まれます。
災害が多い日本においては、どちらの備えも重要です。
自然災害に対する防災活動の課題
防災意識と行動のギャップ
災害大国と呼ばれる日本では、各地でさまざまな災害が生じています。そのため、多くの方が災害への関心や不安を持っているはずです。しかし、防災意識はあっても行動が伴っていないケースは少なくありません。
東京都耐震ポータルサイトによれば、大地震による負傷原因の30~50%は家具類の転倒や落下です。しかし内閣府の「防災に関する世論調査」によると、大地震に備えて家具・家電を固定して転倒や落下防止の取り組みをしているという回答の割合は、35.9%でした。特に何の対策も取っていないとの回答の割合は13.9%です。家具などを固定していない理由として、「やろうと思っているが先延ばしにしてしまっている」「自分では作業ができない」「お金がかかるから」などが挙げられています。
防災知識の不足や危機感の欠如などの問題を改善し、高い防災意識を実際の対策や行動につなげなければなりません。
参照元:東京都耐震ポータルサイト「地震による負傷原因の30%~50%は家具類の転倒・落下が原因」
ライフラインの整備
災害発生時には、水道やガス、電気や通信などのライフラインが停止する可能性があります。避難する場合にも、ライフライン機能の確保は必須です。
東日本大震災では大規模な断水や下水道施設の稼働停止、停電や通信途絶により、多くの被害が生じました。長時間ライフラインを使用できないと、人々の生活は成り立ちません。
水道管路の耐震性向上、無電柱化による電線の安全化といったさまざまな対策が必要ですが、未整備の災害危険個所も多くあります。
さらに国土交通省の資料によると、高度成長期以降に整備されたインフラ(河川、下水道など)の多くが建設後50年を経過しています。老朽化への対策が遅れ、機能に支障が出ている場合もあるため早急な対応が必要です。
耐震化によって災害対策を強化し、災害発生時から早期復旧までのバックアップシステムを構築しなければなりません。
参照元:国土交通省「防災・減災、国土強靱化~課題と方向性~」
避難所の整備や運用
災害発生時に、自宅が災害危険区域にある、あるいは住めない状態となる場合は、避難所を利用することになります。避難所とは自治体が指定している指定避難所を指し、例として挙げられるのは学校や体育館、地域センターなどです。
避難所は避難者を受け入れる役割だけでなく、地域の防災・支援拠点としての役割も果たしますが、運用にあたっては多くの問題があります。たとえば、ペットを飼っている人や高齢者は避難が困難です。そのため、避難をしない選択をする人もいます。
また、都市部では避難者が集中しますが、避難所の受け入れられる人数には制限があります。加えて、学校などの施設では、老朽化していたり、そもそも避難者が長期間利用できる仕様になっていなかったりするなどの点も問題です。
避難後も物資の不足や衛生面などのさまざまな問題が想定されます。災害規模や程度によっては、避難生活が長期に及ぶこともあります。限られたスペースで大勢の人間が生活するのは強いストレスになりますし、プライバシーを守ることもできません。乳児や持病がある人などのニーズに合った物資調達も困難です。衛生管理の難しさから、感染症が発生する可能性もあります。
新しい避難所の設置や、老朽化への対応が急務です。
情報伝達体制の構築
災害時に通信途絶や通信規制が生じれば、安否確認や災害状況の把握に支障が出ます。携帯電話が圏外の地域もありますし、被災情報が自治体や機関に伝わらなければ救援を受けられないかもしれません。
特に高齢者は正確な情報の入手が困難です。携帯電話を持っていない場合は緊急速報メールを受け取れず、自宅からは災害を知らせるスピーカーの音声が聞き取りにくいなどのケースが考えられます。
そのため、防災を確実に行うのであれば、複数の情報伝達手段の活用が重要です。テレビやラジオ、携帯電話などを組み合わせ、確実に情報を伝達する体制を構築しましょう。
課題解決につながる防災DXとは?
前述の通り、防災活動にはさまざまな課題があります。そこで近年では、AIなどの最新技術を駆使して課題を解決し、災害対応ができる防災DXが活発化しています。
災害時でも企業や自治体は被害を最小限に抑えつつ業務を継続しなければならないため、防災DXによって迅速な情報伝達や状況把握を行う形です。防災活動のデジタル化は大きな効果が期待できるもので、多くの企業や自治体が取り組んでいます。
災害による被害を防ぐには、DXを活用できる基盤やシステム構築が求められます。
関連記事:AI防災とは? 導入が求められる背景やメリット、導入事例を解説
企業や自治体における防災DXの活用事例
従業員の安否確認をシステム化
災害発生時には、社員の安否を確認しなければなりません。通信が遮断される可能性がある中で全社員の安否確認は困難であり、時間や労力もかかります。迅速な安否確認が可能になれば他の業務に注力でき、不安も軽減されるはずです。
ある組織では安否確認システムの導入によって、情報伝達の迅速化を図りました。システム導入にあたり検討した点は、操作が簡単であることと、メール送信エリアが細分化されていることです。ITツールの使用に不慣れな社員でも、簡便に情報発信できる仕様でなければなりません。さらに組織は広域で多数の事業所を持つため、自社のルールに沿って各地から迅速にメールを送信できるシステムが必要でした。
システム導入により、災害発生時の迅速な安否確認やメール送信が可能になりました。
雨量計、ライブカメラ等による災害時の情報収集の迅速化
災害発生時には、情報収集や状況把握が困難になります。雨量計やライブカメラを活用することで、災害時の迅速な対応を図る自治体もあります。
群馬県みなかみ町では、町の面積が広く災害時の情報収集に多くの時間や人員が必要になるという問題を抱えていました。そこで、水害の被害が深刻と想定される13の地域に設置した雨量計やライブカメラから、雨量や積雪深に異常が検知されると担当者に自動通知される仕組みを整えたました。
一部の情報はみなかみ町気象情報ライブカメラで公開されているため、地域住民はリアルタイムで簡便に情報を得られます。
デジタル化によって、人を介さない安全な情報収集や関係者への周知が可能になりました。
3D都市モデルを活用して災害リスクを可視化
災害リスクが可視化されれば、人々が危機感を持ちやすくなります。
熊本県玉名市では、3D都市モデルと災害情報を重ね合わせることで三次元化した災害リスクを時系列で表すプロジェクトを進めました。プロジェクトの一環として制作したのが、実際の街を使った浸水シミュレーションを体験できるVRコンテンツです。臨場感あふれる水害を体験した住民は災害を身近なものと捉え、防災意識を高められます。
3D都市モデルと土地利用などの都市情報を重ねることで、避難誘導の高度化や避難計画の立案につなげられます。
ドローンを活用した「地産地防」の仕組みの構築
広島県神石高原町では、ドローンを活用して地域住民が街を守る「地産地防」のシステム構築を図りました。神石高原町にある広大な山林には、災害危険個所が多く存在します。しかし人員不足や危険性の高さから、災害発生時に迅速かつ安全に情報収集できるシステムがありませんでした。
そこで、災害時には住民がドローンを活用して災害状況を把握できるようにするため、町としてドローン事業を推進しました。住民を対象に行ったのは、ドローンの操縦と被害情報を収集・共有するための講習です。さらに、収集した情報を共有する体制やシステムを構築しました。これは災害発生時、ドローンを活用して現場を撮影し、作成した画像を遠隔地の自治体と共有するというシステムです。
実践的な講習とシステム構築により、住民の安全を確保しつつ連携しながらの情報収集・共有が可能になりました。この町では地域の防災力を高めるだけでなく、他の分野にもドローンを応用する方針です。
関連記事:災害時のドローン活用方法! メリット・課題・活用事例も解説
浸水センサー等を活用した安全・安心のまちづくり
秋田県秋田市では、大雨による浸水被害が深刻な地域に浸水センサーなどの監視装置を設置しました。浸水センサーが水位上昇の異常を検知し、警報ランプやサイレンなど光や音による警報を鳴らします。ネットワークカメラによる映像を配信し、メール自動送信による警報が担当者や配信希望者に届けられます。冠水や氾濫状況を可視化し、4種類の警報で地域住民に知らせることによってスムーズな注意喚起、情報共有が可能となりました。
今後は受信環境や必要な情報について、住民のニーズをふまえたうえでメール配信などを行う予定です。災害発生時に通行止めなどの迅速な対応を行えるようにすることで、水害が多発する地域住民の安全確保ができます。
まとめ
災害や災害による被害を未然に防ぐためには、防災活動が不可欠です。望ましい防災活動のためには、防災に向けた行動やライフライン・避難所の整備、情報伝達体制の構築を行わなければなりません。
課題解決に役立つのが防災DXです。多くの企業や自治体がドローンやセンサーを活用し、さまざまな防災DXが進められています。
デジタル化を進め、防災のための有効な対策をとりましょう。